社外取締役対談
この一年の取締役会を振り返って
加々美:当社は2027メディパル中期ビジョンの5つの成長戦略のもと、持続的な成長を確実にするための先行投資を強化しているフェーズです。この一年は、東七(株)やMP五協フード&ケミカル(株)、(株)プリメディカなどの事業会社のグループインや国内最大のヘルスケア物流プラットフォームの構築を目指す(株)メディスケットの設立など決議すべき案件が多くありました。また、希少疾病領域における画期的な新薬の上市や、デジタルを活用したビジネス基盤の強化などのための投資も相次ぎました。そして、新しい事業に対する意思決定が取締役会で諮られ、一つひとつの議案について議論を重ね、過去に起こしたコンプライアンスにかかる不祥事の経緯も踏まえ、事業拡大の基調にあっても、コンプライアンスやガバナンスが効いているか否かを必ず社外取締役や監査役を中心に意見交換してきました。浅野さんからは、本中期ビジョンを策定して一年が経過したので、全体的な視点で、本中期ビジョンおよび成長戦略をあらためて評価したほうがいいというお話がありましたね。
浅野:はい。本中期ビジョンの実現に向け、執行側がさまざまなプロジェクトをスピード感を持って進めているので、本中期ビジョン全体での進捗については中間地点として別途討議したいと思っています。この一年間は事業案件のみならず、東証からの要請への対応やグループガバナンスの課題点まで、懇談会という形式も含めて取締役会での議論は多岐にわたりました。コンプライアンスやガバナンスといったものは、ゴールのないものです。不祥事には至らないまでも注意すべきところがある、ということを重く受け止めたほうがいいと認識しています。小事が大事への防御になるという考えのもと、表面化したタイミングを改善の好機と捉えて取り組んでいくことが重要です。今後は、さらにガバナンスに関する議論を増やし、長期的な方針を共有することに賛成です。
加々美:限られた時間の中で社外取締役を含めて議論を活発に交わすために、事前説明会が継続的に開催されています。現在のように事業関連の議案が多い時は、例えば、取締役会が終了した後に懇談会や意見交換会のような、ざっくばらんに意見交換できる場があってもいいと思っています。先日開かれたコンプライアンス委員会には、社外取締役からの提言の結果、事業会社の責任者がオブザーバーとして参加するようになりました。顔を見ながら意見を伺うことができ、何より皆さんが率直に現状の課題をお話しされて、大変に有意義な会議でした。当社グループのコンプライアンスに対する取組み方や考え方について、共通認識を持って理解していくための下地ができてきたのではないかと感じました。
2027メディパル中期ビジョンの進捗について
浅野:本中期ビジョンの進捗については、いわゆる本業の卸事業の周辺を深掘りしていく、ビジネスチャンスの拡大を図るという点では順調であると評価しています。中でも注目しているのは、成長戦略で掲げる新たな領域を推進する人材が育ってきており、力を発揮している点です。本業の卸事業では、コンプライアンス面での難局を乗り越えるべく取り組んでいる中で、収益を保つ努力を愚直に続けてきた姿勢は評価したいと思っています。事業ポートフォリオのシフトも進展しています。
加々美:私も目指す方向の事業領域の拡大の取組みは、かなり進んできているという印象を持っています。また、調剤薬局業務サポートシステム「PRESUS®*」をはじめ、若いメンバーで推進しているプロジェクトを通じて会社として経験を積ませる機会を積極的に設けることで人材が育ってきているのではないかと思っています。他方、5つの成長戦略を加速する中で、グループ全体として俯瞰した見方も必要ではないかと思っています。先日、取締役会の実効性評価のアンケート結果の速報を拝見しましたが、大局的な見地からの議論の必要性という点では共通認識であることがわかりましたし、毎年、分析・評価することは大変有益であるとあらためて感じました。
浅野:期初の段階で、中期ビジョンの進捗モニタリングに関してディスカッションする予定を組み込んでおくこともよいのではないかと思います。
*PRESUS®:Pharmacy Real-time Support System ALCと連動して、需要予測による自動発注や在庫管理などを行うオールインワンのシステム。調剤薬局内の各種業務を支援
企業価値向上に向けて
浅野:2023年5月に表明した資本政策の基本方針は、資本コストや資本収益性を意識した経営を実践していくことであり、資本効率性についても執行側と共通認識を持って議論を進めています。
加々美:海外IRなど投資家との対話の状況についても詳細に取締役会で報告されており、社外役員から活発な意見が出て、議論しています。さまざまな業種の企業を見てきて思うことは、それぞれの会社の沿革や事業特性などがあり、一口に資本政策といっても多様な選択肢があると考えます。医薬品業界全体が厳しい環境にある中で、当社がどのような資本政策を策定したのか、株主の皆様にご理解いただくように説明できるということが大事ではないかと思っています。
浅野:そうですね。医薬品の物流という、重要な社会インフラを担っているということを強く意識した事業運営をしている姿勢はすばらしいと思います。報酬委員会での議論でも、単に利益が出たら報酬として還元するという考え方ではなく、経営の安定化を一義として意思決定しているし、外からはなかなか見えにくい点ではありますが、そうした姿勢を表明していくことも株主との相互理解につながるのではないでしょうか。一方、社会インフラとして確かなものとしていくために、喫緊の課題の一つにはサイバーセキュリティ対応があります。これは地政学的リスクが高まる中で、どう防御するかばかりに腐心するのではなく、起きた後にどう対処していくかをシミュレーションしておくことが重要であると認識しています。
加々美:サイバーセキュリティについては取締役会でも担当部署から対応の報告があり、意見交換しましたね。サステナビリティ関連で申し上げておきたいのは、ダイバーシティ&インクルージョンの推進状況です。社内で環境やダイバーシティ&インクルージョンに関して議論する会議体を設けていて、年1回報告を受けています。女性の社外取締役・社外監査役も活動に参加して、昨年は女性活躍推進についてのパネルディスカッションに全員で参加しました。
浅野:サステナビリティについては、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)など質疑応答が取締役会全体で活発に行われました。また、マテリアリティの重要な要素として、人材マネジメントに関する意見交換も多くありました。さまざまな課題に対して進むべき方向性を議論し、大変意義のある一年だったと思います。