2025.06.02

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ライソゾーム病の基礎知識-治療編-

ライソゾーム病は、ライソゾーム(リソソーム)の機能がうまく働かないことで、不要な物質が身体に蓄積する病気の総称です。本記事では、ライソゾーム病の主な治療法について解説します。

※関連記事:ライソゾーム病の基礎知識-概要編-

主な治療法の模式図

イラスト:主な治療法の模式図 酵素補充療法 造血幹細胞移植 基質合成抑制療法 シャペロン療法 遺伝子治療 対処療法 酵素補充療法 造血幹細胞移植 基質合成抑制療法 シャペロン療法 遺伝子治療 対処療法
イラスト:主な治療法の模式図 酵素補充療法 造血幹細胞移植 基質合成抑制療法 シャペロン療法 遺伝子治療 対処療法 酵素補充療法 造血幹細胞移植 基質合成抑制療法 シャペロン療法 遺伝子治療 対処療法

1. 酵素補充療法

酵素補充療法とは、身体の中に足りない酵素を点滴等で補充する治療法です。英語の頭文字(Enzyme Replacement Therapy)をとって「ERT」とも呼ばれます。

酵素はタンパク質のため、口から投与すると胃で分解されてしまいます。そのため、注射によって薬剤を直接体内へ送りこみます。
薬剤は週1回または2週間に1回等、定期的な投与が必要です。

点滴の際には、アレルギー反応等の副作用を起こさないように、ゆっくり時間をかけて投与します。そのため、1回の投与に数時間かかることがあります。

イラスト:酵素補充療法

2025年6月現在、以下のライソゾーム病に対する酵素補充療法が承認されています。

  • ゴーシェ病
  • ファブリー病
  • ポンペ病
  • ムコ多糖症I型
  • ムコ多糖症II型
  • ムコ多糖症IVA型
  • ムコ多糖症VI型
  • ムコ多糖症VII型
  • ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症
  • 酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症
  • 神経セロイドリポフスチン症2型

近年、一部のライソゾーム病において、脳室内へ直接投与する薬剤や、脳に届ける新しい技術を用いた薬剤が開発されました。これにより、従来の酵素補充療法では対処できなかった中枢神経症状に対する治療の可能性が広がっています。

2. 造血幹細胞移植

造血幹細胞移植とは、血液の細胞のもとになる「造血幹細胞」を、ドナー(提供者)から移植する治療法です。

移植した造血幹細胞は、患者さんの体内で正常なライソゾーム酵素を作る細胞に分化します。その細胞から分泌された酵素が、患者さんの細胞に溜まった不要な物質を分解すると考えられています。

移植が成功した場合、長期間にわたる効果が期待できるため、特定のライソゾーム病では標準治療のひとつとして実施されています。

イラスト:造血幹細胞移植

3. 基質合成抑制療法

基質合成抑制療法とは、ライソゾーム病の原因となる物質が作られるスピードを遅くすることで、不要な物質を身体にたまりにくくする治療法です。英語の頭文字(Substrate Reduction Therapy)をとって「SRT」とも呼ばれます。

現在承認されている基質合成抑制療法の薬は経口薬であり、毎日服用することで症状を改善します。

イラスト:基質合成抑制療法

4. シャペロン療法

シャペロン療法とは、うまく働かない酵素の構造を薬により安定化し、酵素の活性を高める治療法です。

酵素のようなタンパク質は、作られた後に適切な立体構造をとることで役割を発揮します。そのため、遺伝子変異等により正常な立体構造が取れなくなった場合、うまく働くことができません。
シャペロンは、この適切な構造に至る過程をサポートすることで、酵素が機能を発揮するよう介助します。

なお、シャペロン療法が有効な遺伝子変異は限られているため、投与前に患者さんの遺伝子変異の種類を確認する必要があります。

イラスト:シャペロン療法

5. 遺伝子治療

遺伝子治療とは、患者さんの体内へ正常な遺伝子を導入することで、病気の原因となる遺伝子の変化を治療する方法です。
2025年6月現在、日本ではまだライソゾーム病に使える遺伝子治療はありません。一方、海外では一部のライソゾーム病に対して遺伝子治療が承認されています。

遺伝子治療は大きく分けて2種類あり、直接体内に投与する方法を「in vivo」、体外に取り出した自身の細胞に治療用の遺伝子を導入して体内に戻す方法を「ex vivo」と言います。

イラスト:遺伝子治療

6. 対症療法

対症療法とは、病気によって生じた症状を和らげるための治療法です。
たとえば、抗てんかん薬を使ってけいれん発作を抑えたり、降圧薬を使って心臓や腎臓の負担を減らしたりします。
薬のほかにも、手術や食事療法、ライフスタイルの調整等、患者さんの症状を少しでも減らすために、さまざまな治療が行われます。

監修:熊本大学大学院生命科学研究部
小児科学講座 教授 中村 公俊先生

参考資料

  1. 衞藤 義勝編. ライソゾーム病―最新の病態,診断,治療の進歩― 改訂第2版. 診断と治療社. 2023.
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