2024.07.01

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新生児マススクリーニングとは

概要と目的

「新生児マススクリーニング」とは、治療可能な赤ちゃんの病気をみつけるための検査です。
主に代謝異常*1を調べることができる検査のため、「先天代謝異常等検査」とも呼ばれます。

*1: からだの中の栄養素(アミノ酸など)を代謝する仕組みに異常があること

先天代謝異常症などの生まれつきの病気の中には、気づかずにいると生命にかかわるような障害を起こすものがあります。そういった病気を赤ちゃんのうちに発見し、その後の治療や生活につなげるための検査が、新生児マススクリーニングです。

乳幼児健診や予防接種と並んで、子どもの健康を守るための重要な取組みに位置づけられています。

乳幼児健診・予防接種・新生児マススクリーニングのイラスト
対象者

新生児マススクリーニングは、生まれたばかりの赤ちゃんを対象に行います。
日本では、すべての新生児を対象に実施されています。

検査を受ける場合は、母子健康手帳別冊に入っている「先天性代謝異常等検査申込書」を医療機関へ提出します。

対象疾患

2024年7月現在、新生児マススクリーニングは、以下の「一次対象疾患」(20疾患)を対象に実施されています。自治体によっては「二次対象疾患」なども対象にしている場合があります。

検査を受けることができる病気は、赤ちゃんが生まれた医療機関のある自治体(都道府県もしくは政令都市)が対象にしている病気です。

各疾患の概要は、以下のサイトをご参照ください。

小児慢性特定疾病情報センター > 対象疾病 > 疾患群別一覧 > 先天性代謝異常の疾患一覧

一次対象疾患 二次対象疾患

アミノ酸代謝異常症

・ フェニルケトン尿症
・ メープルシロップ尿症
・ ホモシスチン尿症
・ シトルリン血症1型
・ アルギニノコハク酸尿症

・ シトリン欠損症

有機酸代謝異常症

・ メチルマロン酸血症
・ プロピオン酸血症
・ イソ吉草酸血症
・ メチルクロトニルグリシン(MEG)尿症
・ ヒドロキシメチルグルタル酸(HMG)血症
・ 複合カルボキシラーゼ欠損症
・ グルタル酸血症1型

・ βケトチオラーゼ欠損症

脂肪酸代謝異常症

・ 中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症
・ 極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症
・ 三頭酵素(TFP)欠損症
・ カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-Ⅰ(CPT-1)欠損症
・ カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-Ⅱ(CPT-2)欠損症

・ グルタル酸血症2型
・ 全身性カルニチン欠乏症
・ カルニチンアシルカルニチントランスロカーゼ(CACT)欠損症

内分泌疾患

・ 先天性甲状腺機能低下症
・ 先天性副腎過形成症

糖代謝異常症

・ ガラクトース血症

一次対象疾患と二次対象疾患は、発生する頻度や治療の効果、診断精度などを加味して分類されています。

なお、分類は絶対的なものではありません。例えばCPT-2欠損症は、近年乳幼児の突然死の原因になっていることが判明し、2018年に二次対象疾患から一次対象疾患へ分類が変更されました。

検査を受ける場所

基本的には、赤ちゃんが生まれた施設で実施します。
よって、里帰り出産の場合は、里帰り先の医療機関で検査を受けることができます。

検査費用

新生児マススクリーニングの検査にかかる費用は無料(公費負担)です。
なお、採血などに必要な費用は、保護者の負担になります。

検査の流れ
  • 新生児マススクリーニングは、赤ちゃんの血液を使って検査を行います。

    まず、生後数日(日本では生後5日前後に実施します)の赤ちゃんの足の裏から、数滴の血液を専用のろ紙に染みこませます。
    それを専門の検査機関に送り、病気の有無を調べます。
    検査結果の説明は、通常1か月健診の際に受けますが、再検査や精密検査が必要な場合は、速やかに家族へ連絡があります。

    ひとつひとつの病気はおよそ数万人~数十万人に1人の割合ですが、すべて合わせると、検査を受けた赤ちゃんのうち約9,000人に1人は何らかの病気が見つかる可能性があります。

    新生児マススクリーニングのイラスト
今後の展開

1)対象疾患の拡充

2023年11月、こども家庭庁は「脊髄性筋萎縮症(SMA)」と「重症複合免疫不全症(SCID)」の2疾患を、新生児マススクリーニングの検査対象に加える方針を表明しました。

SMAは全身の筋力が低下する病気、SCIDは免疫が働かないため重い感染症にかかりやすい病気です。いずれも未治療だと1~2歳までに亡くなる可能性がある、非常に重篤な病気です。

PIDJ-NBS「脊髄性筋萎縮症(SMA)とは?」

PIDJ-NBS「重症複合免疫不全症(SCID)とは?」

SMAは近年治療薬が登場し、早期に治療を開始することで、発病を抑えたり症状を改善したりする効果が期待できるようになりました。
また、SCIDは生まれつき免疫が働かないため、生ワクチンを接種すると重篤な副反応を起こす可能性があります。2020年10月から生ワクチンであるロタウイルスワクチンの定期接種が始まったことなどから、新生児期にSCIDを発見・診断する必要性が高まっています。
こういった背景もあり、この2疾患を新生児マススクリーニングに追加するための実証事業が開始することになりました。

実証実験に参画する自治体で生まれた赤ちゃんは、他の対象疾患と同様に、公費でこの2疾患の検査を受けることができます。

2)自費で受ける新生児スクリーニング検査(拡大新生児スクリーニング)の広がり

新生児マススクリーニングの対象外の疾患について、自費で検査を受ける「拡大新生児スクリーニング(オプショナルスクリーニング)」が全国で広がっています。

日本マススクリーニング学会の公表データによると、2024年1月現在、以下の対象疾患について拡大新生児スクリーニングが提供されています。

拡大新生児スクリーニングの対象疾患*2

・ 脊髄性筋萎縮症(SMA)
・ 原発性免疫不全症(PID)
・ ライソゾーム病(ファブリー病、ポンペ病、ゴーシェ病、ムコ多糖症I型、ムコ多糖症II型、ムコ多糖症IV型、ムコ多糖症VI型、ムコ多糖症VII型)
・ 副腎白質ジストロフィー(ALD)
・アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症

*2: 各自治体・医療機関によって、実施の有無や対象疾患は異なります

上記のうちSMAなどについては、新生児マススクリーニングへの追加を念頭においた実証実験が始まっています。その他の疾患もスクリーニングの有用性が実証されることで、新生児マススクリーニングの対象疾患に追加される可能性があります。

参考資料

  1. タンデムマスQ&A 2012. 日本マススクリーニング学会.(https://www.jsms.gr.jp/contents05-01.html)(2024年2月28日閲覧)
  2. タンデムマス・スクリーニング普及協会のご案内とQ&A. タンデムマス・スクリーニング普及協会のご案内とQ&A. (https://tandem-ms.or.jp/q_a)(2024年2月28日閲覧)
  3. 衞藤 義勝編. ライソゾーム病―最新の病態,診断,治療の進歩― 改訂第2版. 診断と治療社. 2023.
  4. 先天性代謝異常検査等の実施について. 児母衛第一八号. 昭和52年7月12日.
  5. 先天性代謝異常等検査の実施について. 子母発0330第2号. 平成30年3月30日.
  6. JaSMIn通信特別記事No.50「あまり知られていない新生児マススクリーニングの裏側」. JaSMIn(先天代謝異常症患者登録制度). (https://www.jasmin-mcbank.com/jasminmcbank/wp-content/uploads/2021/02/JaSMIn通信特別記事No.50(窪田先生).pdf)(2024年2月28日閲覧)
  7. 新生児の難病早期発見へ「脊髄性筋萎縮症」などを検査対象に. NHK NEWS WEB. 2023年11月9日. (https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231109/k10014251691000.html)(2024年2月28日閲覧)
  8. 拡大スクリーニングの実施状況(新生児スクリーニングの対象疾患以外のスクリーニング). 一社)日本マススクリーニング学会. (https://www.jsms.gr.jp/contents04-02.html)(2024年2月28日閲覧)
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