「つなぐ」で希少疾患の課題解決を目指す

SPLine、希少疾患への挑戦

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患者数が少ない病気である『希少疾患』。この希少疾患に対してメディパルグループではさまざまな取り組みを行っています。ここでは、希少疾病用の医薬品流通の提案を担うSPLine(エスピーライン)株式会社の取り組みについて取締役営業本部長 片野雅彰が紹介します。
注)以下、カッコ内は片野のコメントとなります。

SPLine株式会社

スペシャリティ医薬品の安全・安心・安定的な流通のための機能・ソリューションなどの企画・提案を中心に行っています。また、製薬企業、医療提供施設、医療従事関係者や患者さんとそのご家族に対する希少疾患などのスペシャリティ医薬品の流通に関する情報提供などを通じて医療の発展に貢献しています。

目次

希少疾患を『治療法が確立されていない病気』と捉え、そこに潜む課題に目を向ける

希少疾患は、患者数が少ない疾患の総称。病名はあり、治療を行う医師もいるものの、治療効果が不十分だったり、治療薬が未だに存在しないなど多くの課題を抱えています。

「患者数の少ない疾患を定義したものとしては、次の二つが挙げられます。一つは、『難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)』で『指定難病』と定義されており、厚生労働省によると2024年4月時点で341の疾患が対象となっています。
もう一つは、『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)』で定義付けられた『希少疾患』で、患者数が日本国内で5万人未満の疾患を指します。世界では希少疾患が7,000以上もあるとも言われ、必要な治療薬を待ち望まれている多くの患者さんがいると考えられます(片野、以下同)」。

メディパルグループでは、こうした定義を基に、広く「治療法が確立していない難病」も希少疾患と捉え、そこに潜む多くの課題に目を向け、患者さんがより健やかな暮らしを過ごすために何ができるのか、その課題解決に向けた挑戦を行っています。

治療手段が変われば流通も変わる。社会認知が進んでいないという課題も

希少疾患の治療には、さまざまな課題があります。その一つがモダリティ(modality)の変化への対応です。医薬品におけるモダリティとは、抗体医薬、細胞治療、遺伝子治療等といった治療手段の種別のことを言います。

片野は、希少疾患における物流の難しさをこう説明します。「技術の進歩により新しい治療手段が開発されると、これに対応する流通の仕組みが必要となることがあります。
例えば、希少疾患に対応するモダリティの一つ、再生医療は、細胞や組織などマイナス150℃以下の超低温で厳密に管理しながら流通、運搬することがあります。自分自身の細胞を利用した治療を行う『自家細胞療法』では、患者さんの血液を製薬企業へ輸送する仕組みが必要になります」。

さらに、希少疾患は診断がつくまでに時間がかかることも大きな課題です。
「身体に異変や病気の兆候が現れても、患者さん自身だけでなく、診察した医師さえ気付かないということもあるのです。そのため、希少疾患では、5~7年、8人の医師にかかってようやく診断が確定されるとも言われています」。

日本初の薬。しかし、常温に直接さらされていい時間は60秒/回×10回

メディパルグループは、医薬品流通の立場から、モダリティの変化に対応し、革新的な医薬品を確実にお届けする仕組みを作ることや、病気の早期発見と診断につなげるための疾患啓発活動などに取り組んでいます。
モダリティの変化への対応は、メディパルグループが初めて希少疾患に取り組んだ再生医療等製品の流通の実現に見ることができます。

片野は、当時を次のように振り返ります。「この再生医療等製品は、JCRファーマ株式会社が開発し、2016年に発売したもので、患者さん本人以外の細胞である『他家細胞』から創られる国内で初めての再生医療等製品でした。
この再生医療等製品は、流通工程において常温に直接さらしてよい時間がわずか60秒/回×10回。このため、マイナス150℃以下という超低温で製薬企業から輸送、医療機関等で保管する必要がありました。これを実現する流通の仕組みを作ることは、メディパルグループとしても未知の領域であり、医薬品流通全体で考えても、大きな挑戦と言えるものでした」

しかし、この仕組みが完成しなければ、長い年月と研究費をかけて製薬企業が開発、発売した革新的な医薬品も、希少疾患患者さんの治療で使うことが難しくなってしまいます。まさに製薬企業から医療機関をつなぐ、「どんな薬も届かなければ意味がない」「流通価値の創造」を提言する重大な責任を担う仕事でした。

液体窒素を用いた保管・輸送カートと、Webで管理できる仕組みを開発

この難題を解決するため、メディパルグループは流通装置・機器メーカーと協働。2年の月日を経て、液体窒素を用いた超低温保管・輸送カート『medks-SDDU(Specialty Drug Distribution Unit、以下、「SDDU」)』を開発しました。

「SDDUによってマイナス150℃以下の超低温度を10日間以上維持した状態で配送できるだけでなく、患者さんへの投与直前まで医療機関で安全・安心に保管することが可能となりました。
同時に、システム部門と協力し、配送中の場所や温度をリアルタイムに把握できる『SDNS(Specialty Drug Network System)』も開発しました。
これにより、医療機関の保管状況や、全国の物流拠点在庫をWeb画面で確認できるようになりました。製薬企業の工場からの出荷、そして患者さんへの投与直前まで、この再生医療等製品を安全・安心に管理できる体制が実現したのです」。

広がる流通網、広がるサービスラインアップ

最初は、全国約8,000ある病院のうち21の施設でスタートしたこの再生医療等製品の取り組みは、徐々に全国へ拡大。メディパルグループとして国内にある高機能物流センターALC(Area Logistics Center)に、マイナス150℃以下の超低温を含めたさまざまな温度帯に対応した保管·配送システムを設けることで、日本全国に配送できる体制が整えられていきました。

「この流通プラットフォームの実現から、メディパルグループの希少疾患への取り組みが広がりました。
例えば、希少疾病用保冷医薬品の流通においては、運搬時の温度変化を記録・管理して品質を担保するとともに、一度医療機関の医療用冷蔵庫での保存された製品を返品可能にした収納箱『medks-SHIP(Security(担保)、Hygiene(衛生)、Integrity(完全性)、Package(容器)の頭文字)』の開発です。医薬品を個々に保管でき、未使用のものは回収し、他の医療機関で使用します。患者数が少ない疾患だけに、一般的な医薬品と比べて製造量も限定的で、高価な希少疾病用医薬品の廃棄リスクが大幅に低減されるようになりました」。

また、SPLineは、個宅配送のサービスにも着手。希少疾病用医薬品には、保冷品であったり、それらを投与するための専用付属品が多数あったりします。総量でみかん箱ぐらいの大きさの箱が数箱必要となるものもあります。そのため患者さんやご家族が持ち帰ったり、訪問診療を行う医師が運んだりすることも負担の一つとなります。そのため、SPLineの立案したスキームで厳格な品質管理を行い、医薬品を患者さんのお宅まで届ける流通サービスの構築も開始しました。

人×デジタルの力で、認知向上を実現

さらに、SPLineでは、患者さんや医師も含めて社会全体に疾患の認知が進んでいないという課題に対しても、次のような取り組みを進めています。

「一つは、日々、医療機関を訪問しているメディパルグループの『MS(Marketing Specialist)』や希少疾患領域に特化した『RD-MR(Rare Disease MR)』と呼ばれる営業担当者が、希少疾患やその治療に用いる医薬品などの情報を医師や医療関係者へ提供していくこと。もう一つは、医療従事者のための『Clinical Cloud※1』や『ルナルナ メディコ※2』などの情報提供プラットフォームを通じて、希少疾患に関する情報の提供と啓発を行うというものです」。

これらによって、希少疾患に対する理解を深め、例えば、患者さん自身が身体の不調などを覚えたとき、あるいは医療機関を受診した際に、希少疾患の可能性を相談することにつながるサポートを提供できるようになりました。

「つなぐ」企業だからこそ

希少疾患への取り組みを進める中で、メディパルグループは、再生医療等に関する知見を得ることができ、医薬品流通、卸の枠を越えた事業を展開するようになりました。なぜ、メディパルグループは希少疾患に対して取り組むのでしょうか。

「根底には、患者さん中心の考えがあります。一人の患者さんも取り残されることなく、必要な人に必要な薬を必ず届けるのが、メディパルグループの使命。患者さんが少ない希少疾患に取り組んでいくことは、まさにこの使命を具現化した活動と言えます」。

モダリティの変化への対応、疾患への認知と理解の向上など、希少疾患の課題は、患者さん、医療機関、製薬企業を『つなぐ』ことで、解消、軽減されることが数多くあります。
『つなぐ』ことこそ、医薬品流通業の基本的な役割に他なりません。

「自分たちだけでなく、サプライチェーン全体を最適化し、希少疾患の課題に応える『止まらない医薬品流通』の仕組みを実現できるのも私たちだと考えています。だからこそ、メディパルグループは、これからも積極的に、希少疾患に取り組んでいきます」。

※1(株)Doctorbookとの協働で展開している地域医療支援サービスや薬剤・医療機器の情報などの動画コンテンツ

※2(株)エムティーアイが運営する、ルナルナに記録した生理日や基礎体温、低用量ピル(OC/LEP)の服薬状況などのデータを連携先の婦人科等の医師や薬局・施術所等のスタッフに見せることのできるサービス

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